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人はなぜ歯医者に行くのか? その真の答えは「顧客インサイト」にあり

インバウンドマーケティング

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米国で行われた、ある興味深い調査があります。
スーパーマーケットのレジに並んで、今まさに商品を購入しようとしている買い物客に調査員がインタビューします。しかしインタビュー自体はダミーで、もう一人の調査員が一杯になったカートの中から、例えば「エビアン」を、こっそり「ボルヴィック」にすり替えます。そして精算が済んだ後で別の調査員が「なぜボルヴィックを選んだのですか?」と質問すると70~80%の人が、「子供が好きだから」「おいしいから」「体に良いから」など、ボルヴィックを選んだ理由を何の疑問もなく説明してくれたそうです。
一体なぜそのようなことが起こるのでしょうか。その疑問を解いてくれる鍵となるのが「顧客インサイト」です。今回は、消費者が商品購入する際に重要な意味を持つ、顧客インサイトについて解説します。

顧客インサイトとは

従来の消費者分析などでは、どれだけ自分の利益になるか、役に立つかで消費者は商品を選ぶものとされてきました。しかし必ずしもそうではないというのが近年の考え方です。消費者が自分自身の言葉で表現できる欲求は、5%程度と言われています。残りの95%はまるで氷山の海の下にある部分のように、無意識に埋もれています。
ある意味では「消費者は自分でも知らない理由で、商品を購入している」のです。そのような「消費者自身も気付いていない理由」を探ること、またはその理由そのものを「消費者インサイト」と呼びます。

なぜ顧客インサイトか?

皆さんもご存じの通り、現在は商品の機能や性能だけでは消費者の心を掴み、販売増につなげる事は難しくなってきました。
機能や性能以外で消費者にアピールする切り口の例としては、「心地よさ」や「体験」などがありますが、それは客観的な価値基準というよりも、感情による選択と言えます。感情は、論理的な思考と違って無意識の間に働いていることがよくあります。そういう時に「自分でも気が付かない理由で商品を購入してしまう」という事が起こります。

しかし例えば、診療時に患者さんが「なぜ診療に来たのか、来たかったのか」の真の理由が患者さんも医師も分からなければ、何をすれば患者さんが本当に満足するかも判断できません。虫歯の治療の場合でも、単に「痛いから」「ひどくなって痛くなるのがいやだから」来院したと考えるだけでは、真の理由を捉えていないかもしれません。

そのように考えると、顧客インサイトは非常に重要な意味を持ってきます。
すなわち、

  • どのようなサービスを提供すればよいのか、どのようなサービスなら心から満足してもらえるのか
  • どのような欲求に訴えれば、効果的なマーケティング活動ができるのか

は顧客インサイト次第ということになります。

顧客インサイトの事例

■ハーゲンダッツの例

今では食べたい時にいつでもスーパーやコンビニのアイスクリームコーナーで購入できる、『ハーゲンダッツアイスクリーム』ですが、1984年に同社が日本に上陸するまでは、「アイスクリームと言えば子供の食べ物」というのが常識でした。ハーゲンダッツはその「アイスクリーム=子供」というインサイトを発見し、新たなポジション「大人のためのアイスクリーム」(大人が食べても良い、大人が幸せになる)を消費者に印象づけるマーケティングを展開し、成功を収めました。インサイトを発見し、それを元に商品のマーケティングで成功した例です。

■IKEAの例

低価格で北欧らしい洗練されたデザインの家具や雑貨を取り扱うことで、世界的にも人気の高い『IKEA』は、日本でもファミリーから独身者まで幅広い層に人気の大型インテリア店です。
そのIKEAのオーストラリアにあるシドニー店では「マン・ランド」と呼ばれる「男性預かり所」があります。そこではピンボールマシンやテーブルサッカー、男性向け雑誌などがあり、ゆっくりと楽しみながら寛ぐことができます。その間女性は、好きなだけ買物ができる、という仕掛けです。

ここにはどのようなインサイトがあるかと言うと、

  • 男性「買い物に付き合わせられるけど、長時間のショッピングは勘弁してほしい」
  • 女性「買い物に付き合って欲しいけど、文句を言われたりグズグズするのはイヤ」

要するに、もっと時間が欲しい女性の要求を満たすために、退屈でしょうがない男性の気を紛らわせるモノが必要だったのです。

マン・ランド導入の結果、女性が心ゆくまで買物ができるので、客単価が上がりました。
余談ですが、面白いのは、女性にはブザーが渡されて、「男性を忘れて帰らない」ように30分後にブザーが鳴るようになっていることです。(これは一種のジョークかもしれません)

■歯科医院の場合

歯科医院の場合で考えてみるとどうでしょう。
虫歯治療で来院される場合は「今困っている」「今痛いから」「放置すると痛くなるから」というのが理由です。しかしその裏には「困らないなら行かないでもいい」「痛くならないなら行きたくない」「放置して治るのなら行きたくない」というインサイトが隠れています。さらに「治療が痛い、あの音がいや」という理由で実際に来院されない方もおられます。
そういったインサイトを捉えると、次のような施策を取ることができます。

  • 「困らないなら行かないでもいい」に対しては、
    欠けたり、詰め物が取れた歯を放置しておくとどれほど悪い結果になるかをわかりやすく伝えて「早期治療が手間や苦痛、費用や期間などのあらゆる面で有利である」ことを訴求する。
  • 「放置して治るのなら行きたくない」に対しては、
    ストレートに、「放置すると悪くなることはあっても、良くなることはない」ことを明確に伝え、上記同様に早期治療を強く勧める。
  • 「痛くならないなら行きたくない」に対しては、
    「痛くならない」ためには「予防する」ことを伝えて、スケーリングやフッ素塗布などのできるだけ手軽で効果のある虫歯予防を訴求する。ポイントは、治療に比べて予防がいかに「手軽で苦痛が少ない」かということです。
  • 「治療が痛い、あの音がいや」
    無痛治療を訴求するケースは多くなってきましたが、音に対する恐怖心も多いものです。「無痛」と合わせて「静音」の訴求をすることで恐怖感を大幅に和らげることができます。

さらに「できれば行きたくない歯医者」から「行ってみたくなる歯医者」になることも考えることも重要です。

例えばお子さま対象に、「遊び」の要素をより充実させて、待っている子供同士で遊べるようなゲームを用意したり、プレゼント付きのスタンプカードを発行するなどの楽しめる要素を加えるのもいいでしょう。大人向けには、待合室や診療室をリラックスできる空間演出をする。ご高齢者に対しては、バリアフリー対応に加えて移動など際には付き添いをして差し上げるなどのホスピタリティを徹底する。

これらにより「行ってみたくなる歯医者」として印象付けていくことができます。

顧客インサイトを知る方法

顧客インサイトは一種の感情ですので、従来の定量的なリサーチでは捉えることができません。従って「定性的な」調査手法が用いられます。

例えば、与えられたテーマに沿って準備された写真を組み合わせてコラージュを作ってもらい、それについて話し合う「コラージュ・エクササイズ」や、もう少し分かりやすいものでは、被験者と対面で非常に深い部分までインタビューを行う「デプス・インタビュー」などがあります。一見してお感じいただけるように、調査自体に特殊なスキルを要するものがほとんどです。

上記のような手法は、通常大手企業が専門の業者を使って行う調査方法ですが、一般企業や店舗、そして歯科医でも日頃の運営や仕事の中で、インサイトを感じることができる方法があります。

  • 患者さんを観察してみる。できるだけ客観的に、先入観なしに
  • 患者さんに色んな事を聞いてみる。AかBかのクローズ型の質問ではなく、自由回答のオープン型の質問で
  • 患者さんの立場で考えてみる。自分が患者だったら、と想像する。時には他の医院で実際に患者になる

何の脈略もなく急に質問されると驚かれますので、診療中や診療前後で自然な流れの中で行うのが望ましいやり方です。日頃から常に気に留めておくと、日常の仕事の中で自然と行うことができるでしょう。

まとめ

  1. 顧客インサイトとは、消費者自身も気付いていない商品購入の理由を探ること、またはその理由そのものを指す
  2. どのようなサービスなら満足してもらえるのか、どのような欲求に訴えれば効果的なマーケティング活動ができるのかは顧客インサイト次第である
  3. 顧客インサイトは、日常の業務の中でも感じることができる方法がある

インサイトを感じようと努力しても、次の日に「患者さんのインサイトはこれだ」と結果が示されるものではありません。元々が言葉でも言い表しにくい”感情”ですので、結果も「はい、BではなくAです」と出てくるものではありません。しかし、日頃からその努力を行っていると、自分自身もその感情を身をもって”感じる”ことができるようになります。そうなればサービスやマーケティングのあり方に有用な情報となるばかりでなく、患者さんと共感できる医師として益々信頼を得ることもできるでしょう。